こんにちは。家計防衛隊長 佐々木拓也です。
自衛官の方が保険の見直しをする場合、一番ネックになってくるのが団体生命保険です。
色々と理由はあるのでしょうが(合理的かどうかは別として)、最近久しぶりに聞いたのが…

駐屯地に車で通勤するためには、団体生命保険に満口加入しないとダメなんだそうです(泣)
というもの。
果たしてこの謎の規則はどんな理由でできたのでしょうか。今回はこの件について深堀り解説します。
今回の記事を最後まで読んで頂けると、この謎の規則ができた経緯と今本当に必要な規則なのかの答えが見えてくると思いますよ。
車と団体生命保険の接点
車と団体生命保険。
なぜ車に乗るのに生命保険が関係するのか。接点はどこなのか。
一見何の関係もないように思えますが、自動車保険の歴史をたどっていくとその関係性が見えてきます。
自動車事故でケガしたり死亡した場合、相手の”対人賠償保険”と自分の自動車保険の中の”人身傷害保険”で損害を補填します。
そしてこの”人身傷害保険”こそが、今回の件を理解するためにとてもとても重要なポイントです。
少し回り道になりますが、まずは人身傷害保険について解説します。
人身傷害保険とは
人身傷害保険とは、自動車事故で自分がケガをしたり死亡したりした場合の損害を補償してくれる保険です。
例えば、大きな自動車事故に遭ってあなたの損害が1億円(治療費や逸失利益等々含む)と認定されたとしましょう。
通常は相手も自分も「対人対物無制限」で自動車保険に加入しているはずです。
では、対人対物無制限だから相手に無制限で支払ってあげられるか、相手から無制限で支払ってもらえるかと言うと、実はそうではありません。
対人対物無制限であっても、相手に支払ってあげられるのは(相手から支払ってもらえるのは)損害額に対する自分の過失割合の分だけなのです。
例えば、過失割合が50:50だとしましょう。その場合、図に表すとこうなります。

このように相手が無制限で加入していたとしても、相手が払ってくれるのは相手の過失割合分だけ。つまり、
損害額 1億円 × 相手の過失割合 50% =相手からの賠償金 5000万円
となりますので、不足するあなたの過失割合分はあなた自身でどうにかする必要があります。
そして、”自分でどうにかしなくてはいけない部分”をどうにかするのが”人身傷害保険”なのです。
例えば、あなたが
人身傷害保険 3000万円(搭乗中のみ)
に加入していたとすると、こうなります。

仮に自分の過失割合が90%(ほとんど自分が悪い)だったとすると、こうなりますね。

人身傷害保険があっても足りない部分は諦めるしかないですね。
ちなみに損害額1億円というと大げさに感じるかもしれませんが、自動車事故においては決して大げさな金額ではありません。
被害者が20代の大学生であっても、4億円近い損害額が認定された事例があります。
↓
このような高額な損害を被った場合でも、人身傷害保険にシッカリと加入していれば補償は確保できます。
人身傷害保険とは自動車事故に限定した生命保険であり、傷害保険や医療保険、所得補償保険(長期所得安心くん的なもの)であるとも言えます。
つまり、自動車事故の莫大な損害額から自分や家族を守るための最も重要な保険は”人身傷害保険”である、と私は考えています。
人身傷害保険にシッカリ加入していれば、団体生命保険に満口加入するかどうかは関係なくなります。
では、なぜ部隊では団体生命保険満口加入が車両乗入れの条件になっているのでしょうか?
ここからが本題です。
団体生命保険と車両乗入れの関係についての考察
先程人身傷害保険にシッカリ加入していれば、団体生命保険に満口加入するかどうかは関係なくなるとお話しました。
ではなぜ「団体生命保険満口」の規則が存在してるのか。
それは人身傷害保険が、割と最近できた保険だからだと考えています。
人身傷害保険という保険ができたのは、今から20年ちょっと前の1998年頃です。
それまでは人身傷害保険のように実際の損害額を基準に保険金が支払われるのではなく、医療保険や傷害保険と同じような死亡したら1000万円、入院したら日額5,000円などの定額補償でした。
損害額が1億円あろうが2億円あろうが、それとは関係なく決まった額しか保険金は支払われません。
それでも、相手の過失が大きければ相手の対人対物から大部分は払ってもらえます。
しかし自分の過失割合が高かったり、最悪相手が無保険だったりすると、すぐに補償が不足するという事態が発生しうる状態だったのです。
つまり、昔はそういった自動車保険の弱点があったため、その弱点を「団体生命保険で補おう!」と考えたのが始まりだったのではないか。
そういった昭和〜平成初期の自動車保険の弱点を想定した規則が、人身傷害保険の登場によって弱点が克服された1998年以降にも残ってしまったのではないか、というのが私の考察です。
部隊として指導すべきことは
以上のことから、団体生命保険満口と車両乗入れが、自動車保険の歴史を大きく関係していたことがご理解いただけたのではないでしょうか。
もし駐屯地への車両乗入れの条件として「団体生命保険への満口加入」の規則が残っている駐屯地があれば、時代にあっていない規則なのですぐに変更しましょう。
もし部隊として指導するのであれば、指導すべきことは、

団体生命保険に満口加入しなさい!
ではなく、

人身傷害保険にシッカリ加入しなさい!
であるべきだと思います。人身傷害保険が登場した1998年以降の世界においては、自動車と団体生命保険をリンクさせる必要はありません。
繰り返しになりますが、現在においては人身傷害保険にシッカリと加入していれば、自動車事故における自分の補償は万全にできるのです。
今こそ自動車保険の知識をアップデートして、駐屯地の規則を変更しましょう!
「人身傷害保険にシッカリ加入する」というのはどういう事か
では「人身傷害保険にシッカリ加入する」というのはどういう事なのでしょうか。
まずひとつ目は、補償限度額を上げるということです。
保険会社によって違いはありますが、人身傷害保険の補償限度額は下記の段階で設定できます。
- 3000万円
- 5000万円
- 7000万円
- 1億円
- 無制限
特に何も考えずに加入していると”3000万円”に設定されているケースが多いのですが、あなたの人身傷害保険はどうなっているでしょうか?
一番オススメなのは”無制限”にすることです。
この記事の最初の方でも紹介している通り、自動車事故における損害額は年々高額化しており、働き盛りの人が死亡したり障害が残ったりすれば数億円になることも珍しくありません。
そうなったときに自分の過失割合が高くて相手からの賠償額が少なくても、最悪相手が無保険で賠償能力もなく1円も払ってもらえなかったとしても、”人身傷害無制限”で加入していれば、自分の死亡やケガの損害分は自分自身でどうにかすることができます。
あなたがイザ事故に巻き込まれた時「3000万円でも確保できればよし」と割り切れるなら良いですが、そう割り切れる自信がないのであれば、少しでも金額を上げておくことをオススメします。
実際のところ保険料次第というところはあると思いますが、3000万円から無制限に補償を上げたとしても保険料が何倍にもなるわけではありません。
等級にもよりますが、月数百円のプラスで無制限にできる方が多いですね。
私はもちろん無制限です。
何のために?
今回の件でも団体生命保険の件でもそうですが、世の中には、

これって何のためにあるの?
という決まりや規則が少なくないですよね。
そういったものに気づいたらは、一度「何故?」というところを突き詰めて考えてみてほしいと思います。
そこを突き詰めていって理由が分かれば、今はなくしても大丈夫な決まりであることにも気づけるはずです。今回の件もおそらくそうだと思います。
昔から続いてきたものを変えるのは大変なことではありますが、そこを変えることができれば、それはきっと隊員やご家族の皆さんにとっても良いことなので、ぜひ頑張って変えていって下さい
もう一つの知られざる重要なポイント
先程「人身傷害保険の補償金額を上げる」ということを書きましたが、人身傷害保険には知られざるも重要なポイントがもう一つあります。
本記事が長くなってきたので、続きは金曜日の夜配信のメルマガに書きます。
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それでは長い記事にお付き合い頂き、ありがとうございました!
人身傷害保険について理解を深め駐屯地の規則を改正し、より勤務しやすい環境づくりの一助になれば幸です。